相続税について
相続税の基礎知識
遺産の相続や遺言による遺贈がなされることによって取得した財産は、相続税の課税対象となります。相続税の制度は、相続という偶然ともいえる事情によって遺産が帰属することによる不労所得に対する課税や、富の再分配の機能としての役割を果たすものといわれています。
相続税を納めるべき者は、相続または遺贈(死因贈与も含まれます。)によって亡くなった方の財産を取得した個人とされており、相続などによって1人の方の遺産を複数の相続人が相続した場合には、その相続・遺贈によって受けた利益の価額に相当する金額を限度として連帯して納付する責任が生じます。
相続税の課税の対象となる財産
相続税の課税対象となるべき財産には、次のようなものがあります。
- 相続、遺贈または死因贈与によって取得した財産
土地・建物、事業用財産、有価証券、預貯金、家庭用財産など - 相続、遺贈または死因贈与によって取得したものとみなされる財産
生命保険金、損害保険金、生命保険契約に関する権利、死亡退職金、定期金に関する権利、被相続人の遺言による債務免除等による利益など - 相続開始前3年以内に被相続人から贈与を受けた財産
ただし、既に贈与税が課されている部分は控除することができます。
なお、令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以降の贈与ついては、この「3年以内」が「7年以内」となり、生前贈与加算の期間が延長されることになります(結果的に、令和13年以降開始した相続より7年前までの贈与がすべて加算されることになります。)。
相続税の課税の対象とならない財産
相続税の課税の対象とならない財産には、次のようなものがあります。
- 墓地や墓石、仏壇、仏具、神を祭る道具など日常礼拝をしている物
ただし、骨董的価値があるなど、投資の対象となるものや商品として所有しているものは除きます。 - 宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業を行う一定の個人などが相続や遺贈によってもらった財産であって、公益を目的とする事業に使われることが確実なもの
- 地方公共団体の条例により、精神や身体に障害のある人又はその人を扶養する人が取得する心身障害者共済制度に基づいて支給される給付金を受ける権利
- 相続や遺贈によってもらったとみなされる生命保険金のうち、 500万円に法定相続人の数を乗じた金額までの部分
- 相続や遺贈によってもらったとみなされる退職手当金等のうち、 500万円に法定相続人の数を乗じた金額までの部分
- 個人で経営している幼稚園の事業に使われていた財産で、一定の要件を満たすもの
なお、相続人が引き続きその幼稚園を経営することが条件となります。 - 相続や遺贈によってもらった財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や特定の公益法人などに寄付したもの又は相続や遺贈によってもらった金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したもの
相続税の計算方法
「正味の遺産額」とは
相続税を具体的に計算するにあたっては、いくつかのルールを押さえておく必要があります。
まず、第一に理解しておきたいのは、「正味の遺産額」という考え方です。
相続税が課されることになるのは、原則として、この「正味の遺産額」が「基礎控除額」を超える場合だからです。つまり、正味の遺産額は、課税価格の合計額を意味しますから、これを計算することが具体的な相続税額を考える上では欠かせません。
正味の遺産額は、次のようにして計算します。なお、下記の式中の遺産の総額とは、相続財産はもちろん、相続等によって取得したものとみなされる財産、相続開始前3年以内に贈与を受けた財産を合計した総額をいうものとします。したがって、亡くなる3年前までに暦年課税(年間110万円まで)を利用して贈与した財産についても相続財産として加算されることになります。
正味の遺産額 = 遺産の総額 -(債務 + 非課税財産 + 葬式費用)
そして、上記の正味の遺産額を求めるにあたって遺産の総額から控除されるべき債務や非課税財産とは、それぞれ次のようなものをいいます。
債務として控除されるもの
- 借入金や銀行の当座貸越、住宅ローンなどの債務
- 事業において生じた買掛金や未払い金
- 滞納している所得税や住民税など
- 未だ期限が到来していない当年分の固定資産税や住民税など
- 保証債務のうち、求償権を行使することができないもの
- 未払いの医療費
- 従業員の源泉所得税
非課税財産として控除されるもの
- 墓地や仏壇など葬祭に使われるもの、香典、花輪代など
- 宗教や慈善事業その他公益事業を行う方が取得した財産で、これらの事業に使用することが確実なもの
- 相続税の申告期限までに国や地方公共団体などに寄付した財産
- 地方公共団体から心身障害者共済制度によって給付される給付金の受給権
- 生命保険金のうち、法定相続人の数に500万円を乗じた額までの金額
- 死亡退職金のうち、法定相続人の数に500万円を乗じた額までの金額
葬式費用として控除されるもの(特定受遺者や相続を放棄した者は不可)
- 葬式に際して生じた費用で、埋葬や火葬、納骨等に要した費用
- 葬式に際して施与した金品で、被相続人の職業や財産に照らして相当と認められる費用
- 遺体の捜索や遺骨の運搬に要した費用
基礎控除とは?
先にも紹介したとおり、相続税が課されることになるのは、原則として、上記のようにして計算した正味の遺産額が基礎控除額を超える場合です。
基礎控除は、次のようにして計算されます。
基礎控除額 = 3,000万円 +(600万円 + 法定相続人の数)
つまり、法定相続人の数に応じて、基礎控除額は次のようになります。
法定相続人の数 基礎控除額 1人 3,600万円 2人 4,200万円 3人 4,800万円 4人 5,400万円 5人 6,000万円
ここにいう法定相続人の数には、相続の放棄をした方も含まれます。
また、養子については、相続税回避を目的とした養子縁組がなされることを防ぐために、次の範囲で法定相続人の数に含めることができます。
- 被相続人に実子がいる場合、2人以上の養子がいても、養子は1人として数えます
- 被相続人に実子がいない場合、3人以上の養子がいても、養子は2人として数えます
なお、特別養子縁組をした養子・被相続人の配偶者の実子で被相続人と養子縁組した養子・被相続人の実子の代襲相続人などは、通常の実子と同じく1人として数えます。
また、胎児については、民法上では、相続、遺贈に関して既に生まれたものとみなされ、権利義務の主体となり得るものとされていますが、相続税を計算する上では、生きて生まれて来るまでの間は、法定相続人として数えることはできません。このような場合、胎児が生きて生まれた後に、改めてこの子を法定相続人に含めて計算をしなおすことになります。
相続人全員で納めるべき相続税額の計算
正味の遺産額が明らかとなり、この額が基礎控除の額を超える場合には、相続税の申告が必要となりますから、次に、まず相続人全員で納める相続税の総額を計算します。
最終的には遺産をどのように分けたか(遺産分割協議)によって各相続人が納めるべき相続税額は決定しますが、とりあえず、民法で定められた法定相続分に基づき各相続人の仮の相続税額を計算していきます。
そして、各相続人が納めるべき仮の相続税額の合計が相続人全員で納めるべき相続税額となります。
このときは、実際に遺産をどのように分けたかにかかわらず、民法で定められた法定相続分の割合で課税遺産総額を分配して各相続人の仮の税額を計算します。この合計が、相続人全員で納める相続税の総額です。
相続税の税率は累進税率で、遺産のうち一定額を超える部分にはより高い税率で課税されることになります。
相続税額 =(法定相続分で分配した相続人ごとの課税遺産総額 × 税率)- 控除額
法定相続分に応じた取得金額 税率 控除額 1,000万円以下 10% 0円 1,000万円以上3,000万円以下 15% 50万円 3,000万円以上5,000万円以下 20% 200万円 5,000万円以上1億円以下 30% 700万円 1億円超2億円以下 40% 1,700万円 2億円超3億円以下 45% 2,700万円 3億円超6億円以下 50% 4,200万円 6億円超 55% 7,200万円
各相続人が納めるべき具体的相続税額を計算
相続人全員で納める相続税の額が計算できれば、あとは最終的に遺産を分けた割合に応じて各相続人が納めるべき具体的相続税額を算出します。
各相続人の税額は、配偶者の税額軽減や障がい者控除、相続税額の2割加算、小規模宅地等の特例などの制度や特例によって加算や控除が行われます。
相続税額の2割加算
配偶者と1親等の血族以外の相続人の税額は2割加算されます。その上で、配偶者の税額軽減、未成年者控除、障害者控除などを適用して相続人ごとの納付税額を求めます。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額軽減とは、相続した遺産のうち1億6,000万円までであれば相続税が課税されず、これを超過する場合でも法定相続分までは相続税が課税されないという特例です。この特例の適用が受けられるのはあくまで配偶者ですから、事実婚状態の方や内縁の配偶者についてはこの特例は適用されません。
未成年者控除
法定相続人の中に18歳未満の未成年者がいる場合、相続税額から一定の金額が控除されます。
控除される金額=(18歳-現在の年齢)×10万円
たとえば、5歳の子が1人の場合「(18歳-5歳)×10万円=130万円」で、130万円が控除されます。
障がい者控除
障がい者控除とは、相続開始時からその相続人が満85歳になるまでの年数を基準に計算した額が控除される特例です。障がいの程度等に応じ、一般障がい者と特別障がい者の2つに分類されます。
一般障がい者の場合 満85歳までの年数×10万円
特別障がい者の場合 満85歳までの年数×20万円
小規模宅地の特例
ご自宅の敷地など、一定の要件を満たす土地を相続する場合、この特例によりその土地の評価額を最大80%まで減額する特例です。比較的小規模な宅地が相続の対象となっているにも関わらず、評価額の額面どおりで相続税の計算をしてしまうと、相続税の負担が過大になり自宅の敷地などを手放さなくなってしまうことなどを考慮した特例です。
小規模宅地の特例の対象となる土地
- 実際に住んでいた330㎡までの土地 → 80%軽減
- 事業を行っていた400㎡までの土地 → 80%軽減
- 賃貸していた200㎡までの土地 → 50%軽減