遺言とは

遺言とは、生前自分が築き上げてきた財産の処分方法等、ある人の最終意思の実現をその死後においても保障するための制度であり、法律の規定に従ってなされる単独行為です。

遺言は、贈与などの生前処分の場合とは異なり、遺言者の死亡によって始めて効力を生ずることとされています。

しかし、遺言の真否や内容については、遺言が効力を生じた後(つまり、遺言者が死亡した後)に直接本人に確認することは不可能ですし、また、他人によって改変されるおそれも少なくないことから、遺言の作成は民法に定められている一定の方式に従ってなされることを要し、これに反してなされた場合にはその遺言は無効なものとなってしまいます。

遺言の方式については、民法上、普通方式の遺言と特別方式の遺言に大別され、原則は普通方式の遺言によるものとされています。普通方式の遺言としては、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3種類が定められており、他方の特別方式の遺言としては、①危急時遺言と②隔絶地遺言の2種類が予定されています。

遺言能力

一般に、人が有効な法律行為をするためには、行為の性質を判断する能力(行為能力)が必要であるとされており、これを有しないにも関わらずその人がした法律行為は、取り消すことができる行為となるか、無効な行為ということになってしまいます。

人の行為能力については、通常は成年(満18歳)に達すると得られるものとされています。ただ、遺言は、上述のとおり遺言者の最終意思をできるだけ実現するための制度ですから、遺言ができる能力は必ずしも普通の行為能力と同等である必要はありません。

そこで、民法は、遺言という行為の性質が判断できる能力(意思能力)があれば遺言をするには十分であると考え、満15歳になれば遺言をすることができるとしています(民法961条)。また、事理を弁識する能力が不十分であるとして、法律行為の制限を受ける成年被後見人や被保佐人についても、遺言能力は認められています(民法962条)。ただし、成年被後見人が遺言をするには、医師の立会いなどが必要となります(民法973条)。

 第5条、第9条、第13条及び第17条の規定は、遺言については、適用しない。

民法962条

 

1.成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。

2.遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

民法973条

遺言書が無効となる場合

民法上、次のような遺言は無効となります。

  • 遺言能力がない者がした遺言
  • 成年被後見人が、医師の立会いなどの要件を満たさずにした遺言
  • 公序良俗に反する遺言、錯誤によってした遺言
  • 被後見人が後見の計算終了前にした、後見人やその配偶者、その直系卑属の利益となるような遺言

遺言事項

遺言によってすることができる事項は、法律によって下記の行為に限定されています。

遺言によってすることができる事項には、遺言によってのみ、することができる事項と遺言でも生前でも行うことができる事項があります。

遺言によってのみ、することができる事項

1.未成年後見人、未成年後見監督人の指定

遺言者に未成年の子がある場合、自己の死後、その子の後見人や後見監督人になるべき者を指定することができます。ただし、この指定ができるのは、この子に対して最後に親権を行う者であり、かつ、管理権を有する者であることが要件となりますから、実際は父母の一方が死亡していたり、離婚によって父母の一方のみが親権者となっているときなどに限定されます。

2.相続分の指定と、その指定の第三者への委託

相続分は、民法によっても法定されていますが(法定相続分)、遺産の処分権は本来亡くなった方の自由な意思決定に基づいて行われるのが理想ですから、遺言によって相続分の指定がなされていれば、この指定が優先されることになります。ただし、この相続分の指定も、遺留分の規定に反することはできないものとされており、もし、各相続人の遺留分を侵害する指定がなされたときは、相続人からの遺留分減殺請求によって若干の修正がなされる場合もあります。

3.遺産分割方法の指定と、その指定の第三者への委託

相続が開始すると、遺産はとりあえず共同相続人の共有財産ということになり、これが遺産分割されることによって、具体的に各相続人に分配され帰属することになります。遺産分割は、通常、共同相続人の協議や裁判所の審判で行われますが、この分割について共同相続人間で争いが起こるのを未然に防止するためにも、たとえば「この土地は相続人Aに、この土地は相続人Bに」といった形で指定することもできます。

4.遺産分割の禁止

遺産について、共同相続人間で争いが起こるであろうことが予め予想される場合や、遺産を直ちに相続人に分割帰属させることが望ましくないと考えられるときは、5年以内の期間であれば、遺産の分割を禁止することができます。

5.相続人相互間の担保責任の指定

各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売買契約における売主と同様の担保責任を各相続分に応じて負うことになります。これは共同相続人間の公平な利益分配を考慮したものです。また、遺産分割にあたって、共同相続人のうちの1人が遺産中の債権を取得することになった場合、他の共同相続人は分割時における(弁済期未到来の債権については弁済期における)債務者の資力について担保責任を負うことになります。しかし、遺言によってこの担保責任を変更することができます。

6.遺言執行者の指定と、その指定の第三者への委託

遺言の内容を実現するためには、遺言の執行を実際に行う者がどうしても必要になる場合があります。遺言執行者は、利害関係人が家庭裁判所に選任請求をすることによって家庭裁判所が選任することも可能ですが、予めこれを指定したり、指定自体を第三者にしてもらうように遺言することができます。

7.遺留分侵害額請求の負担方法の定め

遺留分を侵害する贈与や遺贈は、遺留分権利者によってその侵害額の返還の請求を受けることがあります。この侵害額請求の順序については、民法に規定が置かれていますが、遺言によってこれと異なる順序で請求するように指定することができます。

8.遺贈及び特定遺贈

遺贈とは、「遺」言によって「贈」与することです。「全財産を〇〇に遺贈する」、とか「全財産の〇割を遺贈する」といった内容を包括遺贈といい、「(特定の財産)を〇〇に遺贈する」と遺贈する目的物を決めてする遺贈のことを特定遺贈といいます。

9.負担付遺贈の受遺者が遺贈を放棄した場合の扱い

受遺者の負担を伴う負担付遺贈をする場合、過重な負担のため受遺者が遺贈を放棄する可能性があります。このような場合に備え、どのような取扱いにするかを指定することができます。

 

遺言でも生前行為でも、することができる事項

1.認知

認知とは、婚姻外で生まれた子と、法律上の親子関係を創設するための制度です。認知がなされることにより、婚姻外の子であっても相続権など子としての権利を取得します。

2.推定相続人の廃除とその取消し

推定相続人の廃除とは、被相続人に対して一定の非行がなされた場合、その者の相続権を予め奪っておくための制度です。

3.寄付行為

寄付行為とは、財団法人を設立するために財産を寄付をしたりすることをいいます。  その他、生前行為や遺言ですることのできる行為としては、信託の設定や特別受益者の持ち戻しの免除などもあります。

4.その他

信託の設定(信託法32項)や保険金受取人の変更(保険法44条)など、民法以外の法律によって、遺言でも行うことができる行為があります。

遺言の取消し(撤回)

遺言をした者は、その自由な意思により、既に書いている遺言を取り消すことができます。

もし、遺言を取り消すことや、変更することを「しない」と誰かと約束しても、その約束は遺言の撤回権の放棄にあたるため、無効(約束としての効力が生じない)となります。

 遺言の取消し(撤回)方法

1.前の遺言を取り消す(撤回する)旨の遺言

前の遺言を取り消す(撤回する)旨の遺言によって、前の遺言を取り消す(撤回する)ことができます。

例)「令和〇年〇月〇日作成の遺言は、全部取り消す。」

2.前の遺言と抵触する内容の遺言

前の遺言と矛盾する内容の遺言により、その矛盾する部分は前の遺言が取り消された(撤回された)ものとみなされます。

例)前の遺言である遺産をAに相続させるとしていたのにかかわらず、その後、遺言でその遺産をBに相続させるとした。

3.遺言と抵触する生前行為

前の遺言と矛盾する生前行為により、その矛盾する部分は前の遺言が取り消された(撤回された)ものとみなされます。

例)遺言である遺産をAに遺贈するとしていたのにかかわらず、その後、生きているうちにその財産をBに贈与した。

4.遺言書を破棄する

遺言者が故意に遺言書を破棄した場合、その破棄された部分について遺言が取り消された(撤回された)ものとみなされます。

なお、遺言が公正証書によって作成されている場合、手元にある『正本』や『謄本』を物理的に破棄しても、『原本』が公証役場に保管されていることから、遺言を取り消した(撤回した)ことにはならないのでご注意ください。

5.遺贈の目的物を破棄する

遺言者が遺贈の目的物を故意に破棄した場合、その目的物を遺贈するという部分について遺言が取り消された(撤回された)ものとみなされます。