法定相続分の修正

特別受益者について

 特別受益者とは

共同相続人の中に、被相続人の生前に生計の資本や婚姻・養子縁組のために贈与を受けた者がある場合など、被相続人から相続分の前渡しとみられるような行為があったり、遺贈を受けた者があるときに、法定相続分どおりに各人の相続分を計算したのでは不公平になるといえることもあります。

そこで、民法は、その贈与や遺贈によって前渡しされた財産を遺産に加えた上で遺産分割の基礎となる財産を計算することで相続分に修正を加えることとしています。

この相続の前渡しとみられるような贈与や遺贈を受けた相続人のことを「特別受益者」といいます。

特別受益に該当するものとは

特別受益に該当するものは、一般的には下記のとおりです。

1.被相続人から遺贈により取得した財産

被相続人の遺言によって財産を取得した(遺贈)場合には、その財産は特別受益に該当します。

2.婚姻や養子縁組のために贈与された財産

持参金や嫁入り道具などは特別受益に該当します。

3.生計の資本として贈与された財産

住居の新築資金や独立開業資金なども特別受益に該当します。

なお、死亡退職金や生命保険金については、ケースによっては特別受益に該当することがありますが、裁判の例でも見解が分かれているようです。

特別受益者の相続分

特別受益者の相続分の計算にあたっては、次の規定に従うことになります。

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3被相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。

4婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

民法903条

特別受益の計算方法(持戻計算)

特別受益者がある場合には、各相続人の相続分は下記のステップで計算していきます。

ステップ① 相続が開始時の遺産の額

ステップ② 特別受益となっている贈与や遺贈の額

ステップ③ ①と②を合計(みなし相続財産)

ステップ④ ③(みなし相続財産)に各人の法定相続分を乗じる

ステップ⑤ 特別受益者については、相続分から自己の特別受益額をマイナスした額が相続額

特別受益者以外の相続人については、の金額が相続額となる。

H4 具体的計算

具体例 その1

被相続人 父

相続人 長男、二男

相続開始日の遺産額 8000万円

長男への特別受益額 4,000万円(住宅購入資金として)

ステップ① 8000万円(相続開始時の遺産合計額)

ステップ② 4,000万円(長男への特別受益額)

ステップ③ ①+②=12,000万円(みなし相続財産)

ステップ④ ③✕1/2(法定相続分)=6,000万円(各相続人の相続分)

ステップ⑤ 長男(特別受益者):6,000万円-4,000万円(特別受益額)=2,000万円

二男:6,000万円

この例では、相続開始時に残った遺産8,000万円を、長男2,000万円、二男6,000万円相続することになります。

具体例 その2

被相続人 父

相続人 長男、二男

相続開始日の遺産額 2,000万円

長男への特別受益額 4,000万円(住宅購入資金として)

ステップ① 2,000万円(相続開始時の遺産合計額)

ステップ② 4,000万円(長男への特別受益額)

ステップ③ ①+②=6,000万円(みなし相続財産)

ステップ④ ③✕1/2(法定相続分)=3,000万円(各相続人の相続分)

ステップ⑤ 長男:3,000万円-4000万円(特別受益額)=-1,000万円⇒0

二男:2,000万円

このケースでは、相続階時点の遺産総額2,000万円のうち長男が取得できる金額は0円、二男が相続開始時遺産の全額2,000万円を全額取得します。また、このケースで二男はみなし相続財産の法定相続分である3,000万円のうち2,000万円しか実際には相続できていませんが、自己の遺留分(遺留分は本来の相続分の2分の1)が侵害されていない限り、二男は長男に1,000万円を請求することはできません。

持戻しの免除

 被相続人の生前行われた贈与や遺贈が行われた場合、相続人間の公平を図るため、過去の生前贈与等を死亡時の相続財産に含め遺産分割の基礎となる財産を計算することはこれまでご紹介したとおりです。

この計算方法を持戻し計算といいますが、これはあくまで相続人間の公平を尊重するためにもうけられた規定であり、一方では被相続人が自己の財産の相続について自分の意思で決定したいという自己決定権の尊重という観点もあります。たとえば、複数ある子のうち、特定の子に財産をより多く分け与えたいといったときに、過去行われた贈与を加えずに実際に相続開始時に残った財産だけを遺産分割の対象として欲しいということもあるはずです。そこで、民法では、被相続人が遺言書等により持戻し免除の意思表示をすることができると規定しています。

また、平成30年の民法の改正によって、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が配偶者に対して居住用不動産である土地または建物を贈与したり遺贈した場合には、あえて遺言などで持戻し免除の意思表示をしなくとも、持戻し免除の意思表示があったものと推定するという規定が設けられました。

特別受益と時効の関係

特別受益に時効はありません。ですから、被相続人の生前行われた相続人に対する贈与は何年前に行われた贈与であっても特別受益として持戻し計算の対象となります。

そのため、相続人間の遺産分割協議によって相続分を決定する場合には、相続開始の何十年前に行われた贈与であってもその額を持戻して、みなし相続財産を算出し、各相続人の具体的相続分の計算をすることになります。

一方、遺留分の計算の際には、原則として相続開始前10年の間になされた生前贈与しか持戻しの対象になりません。遺留分を計算するにあたりあまり古い贈与を持ち出されると、その贈与の時点では遺留分を侵害していなかったにも関わらず、その後の期間の経過により遺留分を侵害してしまうような贈与になってしまう場合もあるため、あまり長期間にわたって持戻しを認めると法的安定を害することもあるからです。

なお、被相続人が亡くなる10年以上前に行われた贈与であっても、相続の開始(被相続人の死亡)が令和元年71日より前であれば、特別受益となる可能性があります。

相続人以外の者に対する贈与が特別受益の対象となるか

相続人以外の者に対する贈与は、特別受益にはあたらないのが原則です。

特別受益の制度は、相続人間の公平を図るための制度であるところ、相続人以外の者についてはこのような制度の趣旨が当てはまらないからです。

したがって、たとえば相続人の一部の者の配偶者や子に対して贈与がなされていても、その贈与は特別受益として持ち戻しの対象とはならないのが原則です。

しかしながら、相続人の配偶者や子である以上、相続人とこれらの者は生計を同じくしていることが多く、そうした者に対する贈与は実質的には相続人に対する贈与に他ならないというケースもあります。

このような場合については、判例によって、相続人の配偶者に対する贈与の動機や経緯、贈与された財産の価値などを考慮して特別受益に該当するとされることがあります。

寄与分が定められた場合

特別受益者のように相続分の前渡しとみられるような贈与を受ける者がいる場合とは異なり、被相続人の生前に被相続人の事業に多大なる寄与をした者や療養看護に努めた者その他被相続人の財産の維持または増加に貢献した者があるときは、単に法定相続分どおりに相続分を計算したのでは、やはり共同相続人間に不公平が生じることがあります。

この場合には、前記特別受益者の例とは反対に、被相続人が相続開始時に有した財産の価額から、共同相続人の協議(または家庭裁判所の審判)によって定められた価額(寄与分という)を差し引いた額を相続財産とみなして、これをもとに法定相続分に従って計算した額に寄与分を加えたものをこの者の相続分とすることになります。

寄与分が認められるケース

被相続人の事業等について寄与した場合

被相続人が行っていた事業について無償に近い形で献身的に従事し、被相続人の財産の形成に特別の寄与をしたような場合です。

金銭等の財産上の給付をした場合

被相続人に代わって被相続人所有の不動産の住宅ローンを返済した場合や、修理修繕費などの支出を行うなどの高額の出資をした場合です。

療養看護をした場合

被相続人が疾病などにより療養や看護を要する状態だった場合に無償に近い形で継続かつ専従的に療養看護を行った場合です。

被相続人を扶養した場合

被相続人の生活援助をしていた場合です。この生活援助とは単にお小遣いを渡していたとか同居していたといったことだけではなく、被相続人の生活全般を援助していたような場合です。

財産の管理をした場合

被相続人の財産を無償に近い形で継続的に管理し、その結果として被相続人の財産の維持または増加に寄与し、その結果との因果関係が認められる場合です。

 寄与分が認められる人

寄与分が認められるのは、基本的には被相続人に対して寄与をした相続人であり、相続人ではない第三者には寄与分は認められません。

そのため、このような相続人ではない第三者が療養看護などの寄与をした場合にそのご苦労が報われるためには生前贈与や遺贈などによる必要がありました。

ところが、これでは相続人ではないものの、献身的に療養看護などに努めた親族の貢献が正当に評価されない場合もあることから、民法改正により、特別の寄与をした被相続人の親族(特別寄与者)にも寄与分が認められることになりました。

ただし、この規定によってもいわゆる事実婚状態の方や内縁の配偶者などは「被相続人の親族」には該当しないことになります。また、この規定では特別寄与者が被相続人の死亡及び相続人を知った時から6か月、または被相続人の死亡後1年を経過したときは、特別寄与料を請求することができなくなります。

  1. 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(相続人、相続の放棄をした者及び第891条の規定に該当し又は廃除によってその相続権を失った者を除く。以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
  2. 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6箇月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
  3. 前項本文の場合には、家庭裁判所は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、特別寄与料の額を定める。
  4. 特別寄与料の額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
  5. 相続人が数人ある場合には、各相続人は、特別寄与料の額に第900条から第902条までの規定により算定した当該相続人の相続分を乗じた額を負担する。

民法1050条

寄与分の計算

 具体的な計算例として、被相続人Xが死亡し、その相続人は、配偶者A、長男B、二男Cの3人であり、相続開始時の遺産の額は6000万円。長男Bが被相続人に対しその居住用の不動産の購入資金として1000万円を出資しこれが寄与分に該当するとします。

被相続人 X

相続人 妻A、長男B、二男C

相続開始日の遺産額 6000万円

長男Bの寄与分 1,000万円(被相続人の住宅購入資金として)

ステップ① 6,000万円(相続開始時の遺産合計額)

ステップ② 1,000万円(長男Bの寄与分)

ステップ③ ①-②=5,000万円(みなし相続財産)

ステップ④ 妻Aの相続分 ③✕1/2(法定相続分)=2,500万円

ステップ⑤ 長男Bの相続分 ③×1/4(法定相続分)+1,000万円(寄与額)=2,250万円

二男Cの相続分 ③×1/4(法定相続分)=1,250万円