未成年者と相続手続

相続が開始した際、法定相続人の中に未成年者がいる場合があります。

未成年者は単独で有効な法律行為を行うことはできないとされていますから、相続人の中に未成年者がある場合において、相続手続のために共同相続人間で遺産分割協議などを行うときは、原則として、未成年者の親権者(親)が未成年者に代わって遺産分割協議に参加することになります。

しかし、このように未成年者に代わって親権者(親)が相続手続を行うだけでは足りない場合があります。

そこで、相続人の中に未成年者がいる場合の相続手続について司法書士が解説します。

※ 2022年4月1日より成人年齢が引き下げられ、18歳未満が未成年者となります。

未成年者の特別代理人

ある方(たとえば、夫)が死亡し、その法定相続人がその配偶者(未成年者の母)と未成年者の子供の2人であったとします。

このようなケースでは、亡くなった方(夫)の遺産について、配偶者(妻=母)が未成年者を代理して遺産分割協議をすることはできません。この場合、配偶者(母)と子とは利益が対立している関係にあるからです(これを『利益相反』といいます)。

もちろん、かわいい我が子に不利益をもたらすようなことをするような母親はいないのもしれません。

しかし、法律の上では、形式的に利益が相反する関係である以上、母親には子を代理する権限が認められないということになっているのです。

第826条 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。
2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

民法826条

そこで、このように相続人間で利益相反する者同士が遺産分割協議をする場合には、親権者(母親)に代わって未成年者を代理する『特別代理人』を家庭裁判所に選任してもらい、その特別代理人と未成年者以外の法定相続人が遺産分割協議をすることになります。

なお、外形からみて利益相反の関係であれば、実際の遺産分割の内容や相続手続の内容が未成年者にとって有利な場合であっても、特別代理人の選任が必要となります。

未成年者に特別代理人を選任しなければならないケース

相続手続において未成年者に特別代理人を選任しなければならないのは、上記のとおり未成年者と親権者との関係が『利益相反』に該当する場合です。具体的には、下記のようなケースが該当します。

1.夫(父)が死亡し妻(母)と未成年者で遺産分割協議をする行為

妻である母と子である未成年者が共同相続人として遺産分割協議をするのですから、母は子である未成年者を代理することは認められません。母が死亡し父と未成年者で遺産分割協議をする場合も同様です。

2.複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする行為

たとえば、祖父Aの相続について、Aの子BがAよりも先に死亡しているため、Bの子(Aの孫)であるCとDが相続人となる場合、CDの母であるBの妻はCとDの両方の親権者として遺産分割協議をすることはできません。

3.相続人である母(又は父)が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする行為

未成年者である子だけが相続放棄をする場合、たとえ借金が多くて放棄することが未成年者にとって利益であったとしても、母が相続放棄をしないのであれば、外形的には未成年者に不利益と見えますから、母が代理して相続放棄をすることはできません。同様に、複数の未成年者の一部についてのみ相続放棄をする場合にも、母はその未成年者の親権者として手続をすることはできません。

特別代理人とは

特別代理人の役割

特別代理人は、家庭裁判所の審判で決められた行為(書面に記載された行為)についてのみ、未成年者について代理権などを行使することになります。家庭裁判所の審判に記載がない行為については、たとえ未成年者にとって利益となる行為であっても、未成年者を代理などをすることができません。

成年後見人のように、一度選任されれば包括的に代理権を行使することができるわけでも、成年に達するまでの間ずっと代理権を行使することができるわけでもなく、あくまでも家庭裁判所の審判によって決められた手続のみ、スポット的に任務を行うということです。

そのため、家庭裁判所で決められた行為が終了したとき(たとえば遺産分割協議が成立したとき)は、特別代理人の任務は終了します。

特別代理人の候補者

家庭裁判所に対する特別代理人選任申立の手続の際には、原則として、その候補者となるべき者を指定する必要があります。

特別代理人の候補者には特別な資格はありませんから、司法書士や弁護士などの法律の専門家に限られず、親族の方がなることもできます。ただし、特別代理人自身の判断能力や利害関係が問題とならないよう、未成年者と手続について利害関係のない成人を候補者にする必要があります。未成年者の叔父・叔母などの親類であれば、特別代理人の候補者となることができます。利害関係としては、直接の利害関係に限らず、間接的に利害関係がある場合など総合的に判断されることになります。

また、未成年者の保護と福祉のために特別代理人を立てるわけですから、候補者は、未成年者の利益を守ってくれる人物である必要があることはいうまでもありません。

なお、遺産分割協議をするにあたり、2人以上の未成年者に特別代理人を付ける必要がある場合には、同じ方を共通の特別代理人候補者とすることはできず、各未成年者ごとに、各別の候補者を立てて頂くことになります。

特別代理人の選任が必要であるにも関わらずこれを選任せず行われた場合

親権者と子が利益相反の関係にあるため、本来であれば家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その特別代理人が未成年者を代理して手続をする必要があるにもかかわらず、特別代理人の選任手続を経ずに行われてしまった手続はどのような扱いになるのでしょうか。

こうして行われた手続は民法に規定される、代理権を有しない者がした『無権代理行為』にほかなりませんから、未成年者が成年に達した後に追認をしない限り、本人(=未成年者)にその効力が及ぶことはありません。

代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。

民法113条1項

なお、特別代理人の選任が必要なケースであるにもかかわらず、特別代理人を選任せずに遺産分割協議をし、その協議に基づいて不動産の名義変更登記を行おうと試みても、法務局の審査は通りません。後に追認があれば有効になる余地はあるとしても、逆にいえば確定的に無効となる可能性があることを見過ごすことはできないからです。

特別代理人選任申立の必要書類等

特別代理人の選任には、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「特別代理人選任申立」の手続を行う必要があります。申立人となるのは未成年者の親権者もしくは利害関係人です。

必要書類

  • 特別代理人選任申立書
  • 申立人(親権者)と未成年者の戸籍謄本
  • 特別代理人候補者の住民票、戸籍謄本
  • 遺産分割協議を行う場合、被相続人の遺産を明らかにする資料(不動産登記事項証明書、固定資産評価証明書、預金残高証明書など)
  • 利益相反に関する資料として遺産分割協議書の原案など

事案により、上記以外の追加資料の提出を求められる場合があります。

費用

法定の費用として必要となる費用は下記のとおりです。

  • 申立手数料800円(収入印紙)
  • 郵便切手(裁判所によりがk異なるが数百円程度)

この他、特別代理人を司法書士や弁護士などの専門家に依頼する場合には、別途報酬が必要となります。

期間

必要書類の準備を済ませ、管轄の家庭裁判所に特別代理人選任の申立を行うと、書面のチェックが行われるとともに、これから行おうとする手続(たとえば遺産分割協議)の内容について未成年者に不利な点がないかどうか、候補者に不適格なところがないかどうかが審理されます。

その審理の過程において、候補者に事情や意見を聞く機会があったり、追加の資料の提出が求められることがあります。

そして、特に問題がなければ、申立てから1か月から2か月程度で特別代理人が選任されることになります。

特別代理人選任手続や代理人への就任もお任せ下さい

未成年者がいる場合の相続手続において遺産分割協議が必要な場合、家庭裁判所の審理に際し、遺産分割協議書の原案の提出を求められます。

その場合、遺産分割の内容について裁判所が確認をすることになりますから、法的な知識はもちろん、どのような内容で遺産分割協議をすべきかについて、予め裁判所を説得できるように検討しておく必要があります。

当事務所では、未成年者の特別代理人選任手続が必要となるケースについて、相続人の調査(戸籍類の収集)、相続財産(遺産)の調査、遺産分割協議書案の作成、家庭裁判所との調整などの支援業務、特別代理人選任後の各種相続手続(不動産の名義変更登記、預貯金に関する手続)のサポートを行っております。

また、実際に特別代理人の候補者になっていただく方が身近にいらっしゃらないようなケースでは、当事務所の司法書士が特別代理人をお引き受けいたします。

当事務所の司法書士田中が特別代理人に選任された審判書

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