生前贈与と登記不動産を生前贈与したときは、その旨の登記(名義変更)をしなければなりません。

たとえ当事者間で「あげる」「もらう」と贈与の約束をしていても、不動産の場合には、名義変更の手続(贈与による所有権移転登記)をしない限り、贈与が行われたことを他人に対して主張することはできません。

また、民法の規定では、贈与は契約書の作成や登記などがなくとも有効な契約として成立するものとされていますが、贈与が形として行われていない(履行されていない)場合には、当事者の一方から任意に取り消す(撤回する)ことができるとされています。

そのため、不動産を生前贈与した場合には、速やかに登記をすることが必要なのです。

不動産の生前贈与の登記の必要書類

生前贈与による所有権移転登記をするためには、下記の書類が必要となります。

ただし、事例によっては、下記以外の書類が必要となることがあります。

贈与する方が用意するもの

  • 贈与する不動産の権利証(登記識別情報)
  • ご印鑑(ご実印)
  • 印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの1通)
  • 贈与する不動産の固定資産評価証明書
  • 身分を証明する公的証明書(運転免許証等)

贈与を受ける方が用意するもの

  • 住民票(1通)
  • ご印鑑(認印でも可)
  • 身分を証明する公的証明書(運転免許証等)

不動産の生前贈与の登記の費用

不動産の生前贈与の登記の費用としては、一般に下記の3つの項目が挙げられます。

司法書士に依頼する場合の手数料

66,000円

生前贈与による所有権移転登記(名義変更登記)を司法書士に依頼する場合の司法書士手数料(報酬)は、依頼する司法書士事務所により異なります。

当事務所では、親族間の生前贈与について、司法書士報酬を定額66,000円(税込)とした報酬定額制プランをご用意しております。このプランでは、登記の申請から必要書類や贈与契約書の作成など、生前贈与の登記を定額でフルサポートしています。

生前贈与の登記定額プランの詳細はこちら

登録免許税(印紙代)

固定資産評価額 × 2%

登記の際に納める税金です。税率は不動産の固定資産税評価額に対し2%です(評価額1,000万円あたり20万円)。

その他実費

概算 2,000円 ~ 5,000円

登記記録の調査や住民票や印鑑証明書、評価証明書など必要書類の取得費用等。

生前贈与の登記のために不可欠なこと

当事者の合意があること

贈与は、当事者(贈与者・受贈者)の合意によって成立する契約です。

したがって、当事者の一方、たとえば親が子に土地を贈与したいと思っていても、子の了解(=当事者双方の合意)がなければ有効な贈与は行えません。

また、詐欺や強迫が行われた場合など、当事者に意思の自由がない状況で結ばれた契約については、取り消されたり無効になったりすることがあります。

なお、詐欺や強迫などはなくとも、たとえば認知症などによって自ら意思決定ができない方が贈与の当事者となる場合、家庭裁判所に申立てを行い、その方について成年後見人等代理人の選任してもらい、その代理人が本人を代理して贈与契約を締結する必要があります。

抵当権者などの了解があること

贈与しようと考えている不動産に金融機関の抵当権など第三者の権利が設定されている場合、そうした権利を有する第三者の合意が必要となることがあります。

贈与の契約そのものは、贈与をする両当事者の合意があれば有効に成立することになるのですが、一方で、第三者の権利が設定されている場合に勝手に贈与されてしまうと、そうした第三者の権利を害する可能性があります。

こうした観点から、住宅ローンの返済期間中で、不動産に抵当権が設定されている場合には、ローンの契約上、債権者の合意なく所有権を移転してはならない旨が規定されています。

もし、このような規定に反し、無断で贈与を行うと、ローン条項違反となり一括返済を求められてしまうことになりますのでご注意ください。

農地法など法令上必要な許可を得ていること

登記上の地目が田・畑などの農地である場合、農地法の制限を受け、都道府県の許可を受けなければ、贈与の契約は効力を生じません。

農地法の許可を受けることは契約の効力発生要件ですから、当事者間で勝手に農地を贈与することはできません。当事者の契約締結後に許可が下りた場合には、契約の効力が発生するのはあくまで農地法の許可が得られた時(許可書到達日)ということなります。

また、登記申請の際には、農地法所定の許可書(市街化区域の場合には届出書)を添付しなければ登記は受理されません。

このように贈与にあたり、法令上必要な許可や同意を得なければならない場合があります。

相続時精算課税制度を利用した不動産の贈与

不動産の贈与を行う場合、一番の問題は贈与税の課税です。

原則として年間110万円を超える財産の贈与には贈与税が課税され、その税率は最高55%にもなりますから、不動産の贈与を行うと多額の贈与税を納めなければならなくなってしまう可能性があります。

一方で、高齢の親や祖父母が有する不動産をそのまま亡くなるまでずっと所有しているのでは、不動産の有効活用や経済の活性化という点で、社会的にも大きな損失があるとも考えられます。

そこで、一定の要件を満たす場合には、推定相続人となる子や孫に対する贈与を後押しするために、『相続時精算課税制度』という特例が用意されています。

この制度を利用すると、最大2,500万円の価値のある不動産を贈与税を納めることなく贈与することができますから、不動産の贈与を検討している方には非常に魅力的な制度ではないでしょうか。ちなみに、2,500万円の財産をこの制度を利用することなく贈与すると、800万円以上の贈与税を納めなければならないこととなります。

当事務所でも、この制度を利用して土地を父母や祖父母から子・孫に贈与し、贈与を受けたお子さんやお孫さんがその土地に新築を建築する、といったケースを数多く担当させていただきました。

相続時精算課税制度を利用した不動産の贈与にご興味のある方、当事務所までご相談ください。

相続時精算課税とは

相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫に対して行われた贈与について、贈与された額の合計が2500万円までは贈与税が無税となる制度です。

少し分かり辛いかもしれませんが、この制度は、贈与した金額が2,500万円までであれば、とりあえず贈与税は納めなくても良いから、もし、相続が開始した時点(贈与者が亡くなった時点)で相続税を納めなければならない位に資産を持っていた場合には、その時に相続税で精算してくださいね、ということです。なお、2,500万円を超える贈与を行った場合には、超える額について一律20%の贈与税が課税されます。

つまり、この制度はあくまでも贈与税や相続税を完全に免除するというものではなく、亡くなった時点で相続税が課税されない位の資産状態であれば、生前に前渡ししたとしても、贈与税はかからないようにします、という制度です。そのことが「相続時」と「清算課税」という名称にも表れています。

相続時精算課税を利用した場合、その後贈与者が亡くなった時点で、その贈与した財産の価格を含めて相続税を計算し、この相続税額と既に支払っていた贈与税がある場合にはその差額を支払う(又は還付)ことになります。

なお、相続時精算課税の適用条件として、贈与する方は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、もらう方は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の推定相続人となる子又は孫とされています。

その他、贈与税の詳細贈与税の特例についてご確認ください。