遺言は、法律に規定されている様式を備えていなければ、本人の意思にかかわらず、遺言としての効力を生じないことになってしまいます。

せっかく自分の亡き後の家族のためにと作った遺言が、結局は無駄になってしまうということのないように、遺言をする場合には、しっかりと要件などを確認しておかなければなりません。

また、自分では書けていると思っても、客観的には意味が良く分からない文章になってしまっている場合や、うっかり形式を誤ってしまっている場合などもありますから、やはり、遺言をする場合には、必ず専門家に助言を求めるなどして、確実な遺言を遺すようにしてください。

自筆証書遺言

自筆証書遺言は、遺言の中でももっとも簡便な方法で遺すことができる遺言の方法です。

自筆証書遺言は、遺言者自身が、その全文、日付および氏名を直筆で書き、これに押印(実印でなくとも構いません)することで作成することができます。

ただし、自筆証書遺言には、次のようなデメリット(危険性)があります。

自筆証書遺言のデメリット

  • 遺言者の死後、遺言書が誰にも発見されない可能性があります。
  • 相続手続や遺産分割協議が終わってしまった後に、遺言書が発見される可能性があります。
  • 利害関係のある相続人など、第三者に破棄されたり、内容を変造されたりするおそれがあります。
  • 簡易に自分で作成できる反面、遺言書としての有効性が低くなってしまうおそれがあります。

自筆証書遺言が無効となるケース

また、下記のような遺言は無効となってしまいますから、十分注意してください。

  • 他人の代筆による遺言
  • 遺言者の署名・押印がない遺言
  • ワープロ等で本文を作成した遺言
  • パソコン内に文書として保存してある遺言
  • 訂正方法が間違っている遺言(その部分について)
  • 日付として「昭和○年×月吉日」とだけ記載されている遺言  など

自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

民法968

公正証書遺言

公正証書遺言とは、一定の要件のもと、公証人の関与によって作成される遺言です。公証人が関与する点において、法の要求する手続に則った遺言書を作成しますので、内容的に法律に反するようなものになることはまずありません。

また、公正証書遺言は、公証役場に原本が保管されるとともに、万一に備えデータが保存されていますので、紛失や偽造・変造のおそれもありません。その意味では、遺言書の作成方法の中では最も安心で確実であるといえます。

もっとも、公正証書遺言だからといって、遺言の効力自体が他の遺言の方法より強化されるとか、絶対に有効な内容の遺言になるとかいったことはありませんし、作成には公証人のほか証人2人の立会いが必要になるなど、内容を完全に秘密にする事ができないなどのデメリットもあります。

公正証書遺言の要件

公正証書遺言が有効になされるためには、次のような要件を満たす必要があります。

  • 証人2人以上の立会いがあること
  • 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で(口がきけない方については、通訳人の通訳や、自筆によってそれに代える必要があります)伝えること
  • 公証人が遺言者が口述した内容を筆記して、これを遺言者および証人に読み聞かせ、または閲覧させること(通訳人の通訳によって代えることもできます)
  • 遺言者及び証人が、筆記が正確であることを承認し、各自これに署名押印すること(署名できない場合には、公証人がその事由を付記すれば足ります)

公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
1.証人2人以上の立会いがあること。
2.遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
3.公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
4.遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
5.公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

民法969条

 秘密証書遺言

自筆証書遺言と公正証書遺言との中間的な方法ですが、現実にはあまり利用されていない方式です。

秘密証書遺言とは、自筆証書遺言と異なり、遺言書自体の内容を自分で書いたり、日付を書いたりすることは必ずしも必要とされていない遺言であり、下記の要件を満たす遺言のことをいいます。

なお、秘密証書遺言については、仮に下記の要件を満たしていなかったとしても、自筆証書遺言としての要件を満たしている限り、自筆証書遺言として有効となる余地があります。

秘密証書遺言の要件

  • 遺言者がその証書に署名押印すること。
  • 遺言者がその証書を封じ、証書に用いた印章で封印すること。
  • 遺言者が公証人1人および証人2人以上の前にこの封書を提出して、自己の遺言書であることならびに氏名住所を申述すること(口がきけない方は、通訳人の通訳や封紙に自書することで、これに代えられます)。
  • 公証人がその証書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者および証人とともに署名押印すること。

秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2.第968条第3項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

民法970

自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言の比較

自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
作成する人本人が自筆で作成公証人が作成本人(代筆可)
証人不要2人以上2人以上
費用無料(法務局保管の場合3,900円)公証人手数料、証人謝礼等証書作成手数料
保管場所自宅または法務局原本は公証役場、正本や謄本は本人本人
紛失等のリスクあり(法務局保管ならなし)なしあり
家裁の検認の要否必要(法務局保管なら不要)不要必要

特別方式の遺言

一般危急時遺言

病気やケガなどの有事(危急時)によって死が目前に迫っているような状況で作成する遺言書です。証人3人以上のもとで、遺言者が口頭で遺言の内容を伝え、それを文章に書き起こすことで作成することができます。この方式の遺言書は、自筆でも代筆でも構いません。ただし、この方式の遺言は作成から20日以内に裁判所に確認請求をしなければなりません。もし、この期間内に確認請求をしないと、一般危急時遺言は無効となってしまいます。

難船危急時遺言

船が遭難したり飛行機が墜落の危機に瀕していたりすることにより、死が目前に迫っているような状況で作成する遺言書です。一般臨終遺言のような20日以内という期限はないものの(船舶の遭難等では20日以上経過してしまうことがあるため)、危難が去ってから遅滞なく裁判所に確認請求をしなければなりません。

一般隔絶地遺言

伝染病で隔離されていたり、刑務所に収監されていたりする場合など、死が目前に迫っていなくとも、自由に行動することができない場合に作成する遺言書です。この遺言書では、警察官1人と証人1人以上の立会いのもと、遺言者が自筆で遺言書を作成する必要があります(警察官、証人の署名押印が必要)。

船舶隔絶地遺言

船舶に乗っていて(たとえば世界一周旅行で長期渡航中)、死の危機には瀕していないものの、船の中で作成することができる遺言書です。この遺言書では、船長または乗務員1人と証人2人の立会いのもと、遺言者が自筆で遺言書を作成する必要があります(船長または乗務員と証人の署名押印が必要)。