現在、当事務所では自筆証書遺言の作成支援業務は承っておりません。
なお、公正証書遺言の作成支援業務についてはご依頼・ご相談を承っております。
自筆証書遺言の保管制度について
1.自筆証書遺言保管制度とは
自筆証書遺言は、公証人や証人などの関与が必要となる公正証書遺言とは異なり、遺言者が単独で作成することが可能であることから、比較的手軽に遺言書を作成することができる方法です。
一方で、自筆証書遺言は、利害関係人などの第三者によって偽造・変造・破棄・隠匿されてしまうリスクや、遺言書そのものが発見されないリスクなどもあります。
そこで、これらのリスクを軽減し、自筆証書遺言をより利用しやすくしようと、2020年7月より、自筆証書遺言を法務局で保管をしてくれる制度が始まりました。
それが『自筆証書遺言保管制度』です。
2.自筆証書遺言保管制度の特色
自筆証書遺言保管制度を利用して法務局に保管することができるのは、『自筆証書遺言』に限られます。他の形式によって保管された遺言書はこの制度利用の対象とはなりません。
この制度の利用により、自筆証書遺言は遺言書保管所である法務局において遺言者の死亡日から50年間、遺言書にかかる情報(データ)は遺言者の死亡日から120年間保管されることになります。
また、詳細は後に紹介しますが、この制度では、保管された遺言書の本人・相続人による閲覧請求や遺言書保管についての通知なども用意されており、単に遺言書の保管以外にも利用価値があるといえます。
自筆証書遺言保管制度のメリット
自筆証書遺言保管制度を利用することのメリットとしては、次のような点が挙げられます。
1.遺言書の形式をチェックしてもらえる
有効な自筆証書遺言を作成するためには、民法の定める次のような要件を満たしている必要があります。
- 自筆証書によって遺言をするには,遺言者が,その全文,日付及び氏名を自書し,これに印を押さなければならない。
- 前項の規定にかかわらず,自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第978条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には,その目録については、自書することを要しない。この場合において,遺言者は,その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない
- 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は,遺言者が,その場所を指示し,これを変更した旨を付記して特にこれに署名し,かつ,その変更の場所に印を押さなければ,その効力を生じない。
自筆証書遺言保管制度の利用にあたっては、法務局の窓口でこれら民法の要件を形式的に満たしているかどうかのチェックを受けることができ、もし、要件を満たしていないところがあれば法務局の指摘により訂正することができます。
2.偽造・変造等のリスクがなくなる
自筆証書遺言を自宅等で保管している場合、相続開始後にその遺言書の内容について利害関係のある第三者により偽造・変造されたり、遺言書そのものが破棄されたり隠匿されてしまう可能性もあります。遺言書保管制度を利用することにより、遺言書の原本は法務局に保管されますので、このようなリスクはなくなります。
3.相続開始後に関係者に通知される
自筆証書遺言保管制度を利用すると、法務局の戸籍担当部局と遺言書保管部門が連携することで、遺言者の死亡の事実が確認され、予め遺言者が指定した相続人等に対し遺言書が保管されていることが通知されますから、遺言書の存在自体が知られないまま相続手続が行われてしまう恐れがなくなります。また、相続開始後に関係相続人等が遺言書の閲覧等をした場合にも、法務局からすべての関係相続人等に対して遺言書が保管されていることが通知されます。
4.家庭裁判所の検認が不要になる
自筆証書遺言を保管する方や遺言書を発見した相続人は、原則として家庭裁判所に遺言書を提出して検認を受けなければなりません。
- 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。
- 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。
- 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。
しかし、自筆証書遺言保管制度を利用し、法務局に保管された遺言書については、偽造・変造のリスクがないことから、公正証書遺言と同様、家庭裁判所での検認の手続は不要となります。
民法第1004条第1項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。
自筆証書遺言保管制度のデメリット
1.遺言書の内容はチェックしてもらえない
自筆証書遺言保管制度を利用すると、民法の定める自筆証書遺言の形式的な要件を満たしているかどうかを法務局に確認してもらうことができます。この点は大きなメリットではありますが、法的に有効であることや実際の相続手続において問題なく遺言執行ができるかどうかは審査の対象外となります。つまり、この制度を利用しても、法務局に保管された遺言書の有効性が保証されることはなく、遺言の内容等について助言を受けたり相談に乗ってもらうこともできません。
遺言書の内容はチェックしてもらえません。
2.必ず本人が法務局に出向かなければならない
自筆証書遺言保管制度を利用するためには、必ず遺言者本人が遺言書の保管をする法務局に出向く必要があります。司法書士や弁護士などの代理人として申請することも認められていません。
そのため、体が不自由な方やご病気などによ外出が困難な状況にある方の場合、この制度の利用は困難となります。
遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。2 前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。3 第一項の申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあっては、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所)の遺言書保管官に対してしなければならない。4 第一項の申請をしようとする遺言者は、法務省令で定めるところにより、遺言書に添えて、次に掲げる事項を記載した申請書を遺言書保管官に提出しなければならない。一 遺言書に記載されている作成の年月日二 遺言者の氏名、出生の年月日、住所及び本籍(外国人にあっては、国籍)三 遺言書に次に掲げる者の記載があるときは、その氏名又は名称及び住所イ 受遺者ロ 民法第千六条第一項の規定により指定された遺言執行者四 前三号に掲げるもののほか、法務省令で定める事項5 前項の申請書には、同項第二号に掲げる事項を証明する書類その他法務省令で定める書類を添付しなければならない。6 遺言者が第一項の申請をするときは、遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない。
遺言書保管制度を利用するには、必ず本人が法務局に出向かなければなりません。
3.遺言書の様式などに決まりがある
自筆証書遺言保管制度を利用する場合、民法所定の形式的要件以外にも、この制度の利用上求められる遺言書の様式があります。
自筆要所遺言保管制度を利用する様式に反すると、書き直しになります。
①用紙について
- 提出する用紙のサイズはA4サイズに限られます。
- 上部5ミリ、下部10ミリ、左20ミリ、右5ミリ以上の余白を持たせること。
②片面にしか記載できない
遺言書の用紙の片面にしか記載が許されません。
③各ページに番号を記載する
遺言書が数葉にわたる場合、各ページにページ番号を記載しなければなりません。なお、上下左右の余白部分にはページ番号も記載できないのでご注意ください。
ページ番号は、たとえば1/2、2/2など総ページ数が分かるように記載します。
④ホチキスで綴じたり封筒に入れてはいけない
提出された遺言書は法務局のスキャナで読み取りますから、複数ページにわたる場合でも、ホチキス等で綴じあわせずバラバラのまま提出するようにします。なお、通常の自筆証書遺言の場合、遺言書を封筒に入れ封印することがありますが、自筆証書遺言保管制度では遺言書を封筒に入れて保管することはありませんから、封筒などを用意する必要はありません。
自筆証書遺言の保管申請の方法
1.遺言書を作成する
まずは民法の求める要件を満たし、かつ、自筆証書遺言保管制度独自のルールを守った遺言書を遺言者自らが作成しなければなりません。
また、形式的な要件以外にも、法的に問題のない遺言書になるよう様々な点を考慮し、ご自分の想いを叶える遺言書を作成します。
2.法務局への申請予約
次に、自筆証書遺言を保管する法務局を決め、保管申請の予約をします。ただし、自筆証書遺言保管制度の利用にあたり、実際に遺言書の保管を申請することができる法務局は、全国どこでも良いというわけではなく、下記のいずれかに該当する法務局に限られます。
- 遺言者の住所地
- 遺言者の本籍地
- 遺言者が不動産を所有している所在地
また、自筆証書遺言の保管事務を取り扱っている法務局は不動産登記の管轄と同じではありません。たとえば、埼玉県内に関していえば、下記の法務局のみで遺言の保管事務を取り扱っています。
3.遺言書保管申請の準備
保管場所の法務局が決まったら、保管申請書に必要事項を記入し、保管申請の予約をします。
保管申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードしてご利用いただくか、最寄りの法務局の窓口で入手してください。
なお、保管申請は完全予約制となっており、当日予約はできません。予約可能な日は混雑状況にもよりますが、管轄法務局によっては、平日でも遺言書保管申請の予約自体ができない曜日があるので、法務局に事前に確認する必要があります。
予約の方法は下記のいずれかによります。
- 法務局の手続案内予約サービスを利用する
法務局手続案内予約サービス専用ホームページ - 予約する法務局への電話または窓口予約
埼玉県内の法務局
4.法務局での申請手続
予約をした日時に管轄法務局に必ず遺言者本人が出向く必要があります。
司法書士や弁護士などの専門家に代理して行ってもらうこともできません。
申請手続の際には、下記のものをご持参ください。
- 自筆証書遺言(原本)
- 自筆証書遺言の保管申請書
- 本人確認書類(免許証やマイナンバーカードなど顔写真付)
- 本籍と戸籍の筆頭者が確認できる住民票など
- 3,900円分の収入印紙(法務局の印紙売り場で購入可)
遺言書保管後の閲覧等の手続
1.本人による遺言書の閲覧
遺言者は、預けた遺言書の内容を確認したいときは、遺言書保管場所である法務局に対し、遺言書の閲覧を請求することができます。
モニターの閲覧については最寄りの遺言書保管事務を扱う法務局で行うことができますが、原本の閲覧は遺言書が保管されている法務局でのみ手続可能です。遺言書の閲覧申請には予約が必要です。
また、申請にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 顔写真付きの公的身分証明書
- モニター閲覧の場合 収入入印紙 1,400円(法務局の印紙売り場で購入可)
- 原本閲覧の場合 収入印紙1,700円(法務局の印紙売り場で購入可)
申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
2.遺言書保管申請の撤回
遺言書を預けてる遺言者本人は、遺言書の保管を取りやめたい場合には、遺言書の保管申請の撤回を行い、遺言書の返還を受けることができます。
遺言書保管申請の撤回は、遺言書が保管されている法務局でのみ手続可能です。遺言書保管申請の撤回には予約が必要です。
また、申請にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 顔写真付きの公的身分証明書
- 遺言書保管時以降、遺言者の住所氏名等に変更が生じている場合で、変更の届出をしていないときは、その変更事項が証明できる書面(たとえば、旧住所と現住所が記載された住民票など)
- 手数料 無料
申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
3.住所氏名の変更届
自筆証書保管制度を利用し法務局に遺言書を預けた後、下記事項について変更が生じたときは、速やかに届出をしなければなりません。
- 遺言者の氏名、出生の年月日、住所、本籍および筆頭者
- 遺言書に記載した受遺者や遺言執行者などの氏名や名称、住所等
この請求は最寄りの遺言書保管事務を扱う法務局で行うことができます。変更の届出には予約が必要です。
また、届出にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 顔写真付きの公的身分証明書
- 遺言者の住所氏名等に変更が生じている場合その変更事項が証明できる書面(たとえば、旧住所と現住所が記載された住民票など)
- 手数料 無料
申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
相続発生後の手続
自筆証書遺言保管制度を利用した場合、当該遺言書を作成した遺言者の相続人等は、下記の3つの手続を行うことができます。
1.遺言書保管事実証明書の交付請求
遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者、それらの者の親権者や成年後見人などの法定代理人は、遺言書が保管されているかどうかの確認をすることができます。
この請求は最寄りの遺言書保管事務を扱う法務局で行うことができます。ただし、窓口での申請には予約が必要です。
また、申請にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 遺言者の死亡が確認できる戸籍(除籍)
- 請求者の住民票
- 請求者が相続人の場合、相続人であることが確認できる戸籍
- 請求者の法定代理人の場合、戸籍(親権者)・後見登記事項証明書
- 顔写真付きの公的身分証明書
- 収入印紙 800円(法務局の印紙売り場で購入可)
交付申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
2.遺言書情報証明書の交付請求
遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者、それらの者の親権者や成年後見人などの法定代理人は、遺言書の画像情報(遺言書をスキャンしたデータ画像)が印刷された遺言書情報の交付を請求することができます。
この遺言書情報証明書は、遺言書の原本の代わりとして各種手続に使用することができます(家庭裁判所の検認も不要です)。
この請求は最寄りの遺言書保管事務を扱う法務局で行うことができます。ただし、窓口での申請には予約が必要です。
また、申請にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 遺言者の死亡が確認できる戸籍(除籍)
- 請求者の住民票
- 請求者が相続人の場合、相続人であることが確認できる戸籍
- 請求者の法定代理人の場合、戸籍(親権者)・後見登記事項証明書
- 顔写真付きの公的身分証明書
- 収入印紙 1,400円(法務局の印紙売り場で購入可)
交付申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
遺言書情報証明書の交付を受けると、その方以外のすべての相続人等に対して、関係する遺言書を法務局が保管している旨の通知がなされます。
3.相続人による遺言書の閲覧
遺言者の相続人、受遺者、遺言執行者、それらの者の親権者や成年後見人などの法定代理人は、遺言書の原本またはモニター(コンピュータの画面に表示)を閲覧することができます。
モニターの閲覧については最寄りの遺言書保管事務を扱う法務局で行うことができますが、原本の閲覧は遺言書が保管されている法務局でのみ手続可能です。ただし、窓口での申請には予約が必要です。
また、申請にあたっては、下記の書類等が必要です。
- 法定相続情報一覧図
- 法定相続情報一覧図がない場合、遺言者の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、相続人全員の住民票(3か月以内のもの)
- 請求者が相続人以外(受遺者や遺言執行者など)の場合、住民票
- 請求者の法定代理人の場合、戸籍(親権者)・後見登記事項証明書
- 顔写真付きの公的身分証明書
- モニター閲覧の場合 収入入印紙 1,400円(法務局の印紙売り場で購入可)
- 原本閲覧の場合 収入印紙1,700円(法務局の印紙売り場で購入可)
交付申請書の様式は法務省のホームページからダウンロードできます。
遺言書の閲覧が行われると、その方以外のすべての相続人等に対して、関係する遺言書を法務局が保管している旨の通知がなされます。