遺留分

遺留分とは

遺留分とは、一定の範囲の法定相続人に対し法律上保障された相続財産の留保分のことです。
相続では、基本的には亡くなった被相続人の意思を尊重することとされており、遺言などの方法によって自由に自分の財産を処分することが認められています。
一方で、相続人には、相続人として財産を相続する権利や相続することに対する期待権があり、また、遺された相続人の生活を保障する必要性がある場合もあります。
そのため、被相続人の財産処分の自由と相続人の保護のバランスをとるための制度が遺留分であるということができるでしょう。
遺留分は、被相続人が遺言であっても奪うことのできない、相続人に認められた権利です。
そして、遺留分が遺言等によって侵害されている場合、遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、遺留分の侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。
たとえば、被相続人が遺言で「特定の相続人に全財産を相続させる」としていた場合、遺言書そのものが有効であれば、一旦はそのとおりの効力が生じるものの、遺留分を侵害された相続人は財産をすべて相続した相続人に対しその侵害額に相当する金銭を請求することができるです。

遺留分が認められる人

遺留分が認められる人

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められ、遺留分の認められる法定相続人を「遺留分権利者」といいます。

具体的には、次の人が遺留分権利者に該当します。

1.配偶者・子・直系尊属

配偶者と子は、常に相続人となるため、遺留分も常に認められることになります。
父母や祖父母(直系尊属)については、第1順位の相続人である子がいない場合にのみ、相続人となり、遺留分が認められます。

2.孫などの代襲相続人

第1順位の法定相続人である子が死亡・相続欠格(民法891条)・相続廃除(民法892条)のいずれかによって相続権を失った場合に、その子の子(孫)が代襲相続により相続人となります。この場合、代襲相続人となった孫にも遺留分が認められます。なお、この場合の孫の遺留分は被代襲者である子の遺留分と同じになります。

3. 遺留分減殺額請求権を相続等した人

遺留分を侵害された遺留分権利者には、遺留分を侵害し遺産を多く取得した者に対して遺留分侵害額請求権を取得します。遺留分侵害額請求権は債権として相続の対象となりますから、この遺留分減殺額請求権を有する遺留分権利者が死亡した場合には、下記の人にもその権利が承継されることになります。

  • 遺留分権利者の相続人
  • 遺留分権利者から包括遺贈を受けた人
  • 遺留分侵害額請求権の特定遺贈を受けた人

    4.遺留分侵害額請求権を譲り受けた人

    遺留分を侵害された場合に発生する遺留分侵害額請求権は債権ですから、譲渡することができます。そのため、遺留分侵害額請求権が譲渡された場合には、その譲受人が譲渡人である相続人等に代わって遺留分侵害額請求権を行使することができます。なお、遺留分侵害額請求権を譲渡することができるのは、被相続人が死亡し相続が開始した後に限られます。

    遺留分が認められない人

    以下の人には遺留分が認められません。

    1.兄弟姉妹やその代襲相続人である甥姪

    兄弟姉妹やその代襲相続人である甥や姪には遺留分が認められません。

    2.相続の放棄をした人

    もともと遺留分を有する相続人であっても、相続の放棄した場合には、法律上、その人は始めから相続人ではなかったことになるため、遺留分も認められなくなります。

    3.相続の廃除をされた人

    廃除とは、相続人に著しい非行があった場合などに、被相続人によって相続人の地位を奪う手続です。被相続人により相続の廃除された相続人は、遺留分も認められません。

    4.相続欠格に該当する人

    相続人が故意に被相続人や同順位以上の他の相続人を殺害したり、遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿等をすると、法律上、当然に相続人の資格を失うことになります。これを「相続欠格」といい、相続欠格者には遺留分も認められません。

    遺留分の割合

    遺留分の割合については、次のように定められています。

    相続人ごとの遺留分の割合

    1.配偶者のみが相続人の場合

    配偶者のみが相続人の場合、配偶者の遺留分は1/2です。

    2.配偶者と子が相続人の場合

    配偶者と子2人が相続人の場合、遺留分の合計は1/2です。配偶者の遺留分は遺留分の合計の1/2となりますから、1/2(遺留分の合計)×1/2(配偶者の法定相続分)で1/4となり、子2人それぞれの遺留分は1/2(遺留分の合計)×1/2(子の法定相続分)×1/2(子2人のそれぞれの法定相続分)で1/8となります。

    3.配偶者と父母が相続人の場合

    配偶者と父母が相続人の場合、遺留分の合計は1/2です。配偶者の遺留分は遺留分の合計の2/3となりますから、1/2(遺留分の合計)×2/3(配偶者の法定相続分)で2/6となり、父母それぞれの遺留分は1/2(遺留分の合計)×1/3(父母の法定相続分)×1/2(父母それぞれの法定相続分)で1/12となります。

    4.配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合

    配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合、遺留分の合計は1/2です。ただし、兄弟姉妹には遺留分は認められないので、配偶者の遺留分が1/2となります。

    5.子のみが相続人の場合

    子のみが相続人の場合、遺留分の合計は1/2です。子2人が相続人となる場合、それぞれの遺留分は1/2(遺留分の合計)×1/2(子それぞれの法定相続分)で1/4となります。

    6.父母のみが相続人の場合

    父母のみが相続人の場合、遺留分の合計は1/3です。父母の2人が相続人となる場合、それぞれの遺留分は1/3(遺留分の合計)×(父母それぞれの法定相続分)で1/6となります。

    7.兄弟姉妹のみが相続人の場合

    兄弟姉妹には遺留分は認められません。したがって、遺言で全財産を兄弟姉妹以外の第三者に遺贈する、としていた場合でも、相続人である兄弟姉妹は遺留分を主張することはできません。

    相続人と遺留分のパターン

    上記の相続人と遺留分のパターンを表に示すと次のようになります。

    相続人遺留分の合計配偶者の遺留分子の遺留分親の遺留分兄弟の遺留分
    配偶者のみ1/21/2
    配偶者と子1/21/41/4
    配偶者と親1/21/31/6
    配偶者と兄弟1/21/2
    子のみ1/21/2
    親のみ1/31/3
    兄弟のみ

     遺留分侵害額請求

    遺留分を侵害された遺留分権利者は、遺留分を侵害している相続人等に対して「遺留分侵害額請求」をすることができます。

    遺留分侵害額請求権とは

    遺留分減殺額請求権とは、簡単に言えば「侵害された遺留分を金銭で取り戻すことができる権利」のことです。

    令和元年7月1日に民法が改正される前には、「遺留分減殺(げんさい)請求権」という名称で遺留分を取り戻すための権利が認められていましたが、遺留分減殺請求権だった頃は、たとえば不動産の相続や遺贈が遺留分を侵害する場合、遺留分減殺請求の結果、その不動産が遺留分減殺請求をした側とされた側で共有状態となってしまうことがあり、後々この共有状態が問題となってしまうことが少なくありませんでした。

    しかし、この令和元年の民法改正以降は、遺留分権利者は遺留分を侵害した人に対し、原則として「金銭」で「遺留分に相当する額」を請求することができるものと変更されました。

    この方法であれば、共有状態の継続や解消のための煩わしさもなく、スムーズに解決を図ることが可能となります。なお、この場合に遺留分侵害額を請求された側が金銭で支払うことができない場合(たとえば、相続財産が不動産しかなく、請求を受けた側には現金で支払うだけの十分な原資がない)、現金の代わりに不動産などの現物を引き渡すこともできますが、この場合には、引き渡した側に譲渡所得税などの課税が生ずることがあります。

     遺留分侵害額請求の行使

    遺留分が侵害されている場合でも、遺留分権利者が実際に遺留分侵害額請求権を行使しなければならないわけではありません。すなわち、遺留分侵害額請求権を行使するか否かはその遺留分権利者の自由(任意)である、ということです。

    また、遺留分侵害額請求権の行使方法についても、法律で特に決まった方法が規定されていることはありません。

    したがって、遺留分権利者は、自己の遺留分侵害額請求権を行使するか、また、どのようにそれを行使するかを自由に決めることができます。

    極端にいえば、口頭で「遺留分を侵害されたので、遺留分侵害額請求を行使する」と伝えれば良いのです。

    ただし、遺留分侵害額請求権の行使を口頭で伝えたにとどまるようでは、後日、「言った」「言わない」の水掛け論にならないとも限りませんから、一般的な行使方法としては、内容証明郵便などを利用して明確な証拠を残すべきといえるでしょう。

    遺留分侵害額請求の期間

     遺留分侵害額請求権を行使するか否か、また、それをどのような方法で行使するかは遺留分権利者の自由であるとしても、その時期(期間)についても自由としてしまうと、長期にわたり遺留分侵害額請求権を行使されるか否かが不明となり、法的安定性を害するおそれもあります。

    そこで、民法1048条では、遺留分侵害額請求権を行使することができる期間について定めています。

    遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。

    民法1048条

    上記の規定のとおり、遺留分侵害額請求は遺留分権利者が相続の開始と遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅してしまいます。また、これらの事実を知らない場合でも、相続開始の時から10年を経過してしまうと、同様に権利が消滅してしまいます。