相続人不存在の方の遺産は国に帰属する

相続が開始したにもかかわらず、その方に配偶者や子、兄弟姉妹等民法の定める相続人がいない場合(相続人不存在)において、特に遺言などで財産の帰属を定めていなかったときは、その方の財産はどのように扱われることになるのでしょうか。

相続人が不存在であるからといって、相続人ではない親類や友人などが財産を処分できるわけではありません。

相続が開始して相続人も遺言もない場合、最終的に財産は国に帰属することになります

2021年度において、相続人が存在しないことによって国に帰属した財産は640億円以上にも上るそうです。

ご自分の亡き後、財産が国に帰属することについて抵抗や不満がない方は、自然の流れに任せてしまうのも一つの方法です。

しかし、もしもご自分の財産を、ご自分の意思で社会貢献や公益・福祉に役立てる方法があるとしたら、そのような方法についてご検討いただくことも選択肢の一つではないでしょうか。

前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。

遺贈寄付(遺言による寄付)

では、貴方の財産を貴方の死後において、社会貢献や福祉、公益のために役立てたい、お世話になった団体や法人に使い道を示して譲渡したいと考えたとき、具体的にはどのような方法が考えられるのでしょうか。

遺言を利用した財産の寄付、「遺贈寄付」について司法書士が解説します。

遺贈寄付とは

もし、貴方が亡くなって財産(遺産)を誰かに遺したい(譲りたい)という場合、一般的には「相続」ということが思い浮かぶかもしれません。

しかし、「相続」はあくまで「人の死」により始まる包括承継であり、民法が定める「法定相続人」に対して亡くなった方の一身に専属する権利以外のすべてが自動的に財産が引き継がれることです。つまり、それは必ずしも貴方の意思によるものではなく、「相続」といった偶然の事情によって発生する事象にすぎません。

そのため、「相続」という自然の流れに任せる限り、貴方の財産を受け取れるのは「相続人」に限られることとなり(前述のとおり、相続人がいない場合、最終的には国に帰属します)、相続人以外の第三者や団体・法人等に財産(遺産)を譲ることはできません。

そこで、近年特に注目されているのが、遺言を利用した『遺贈寄付』であり、この方法によれば「法定相続人」に限らず、ご自分の意思によって、自由に、財産を公共団体、公益機関、社会福祉団体などの特定の第三者や団体・法人等に寄付することが可能となります。

寄付との違い

「寄付」と「遺贈寄付」はいずれも第三者に財産を譲渡することで社会貢献や社会福祉、第三者の支援をする方法であることに違いはありません。

両者の違いは、
「寄付」は寄付者の生前に財産を無償で譲渡すること
「遺贈寄付」は寄付者の死後に遺産を無償で譲渡すること
であるという点、つまり寄付が生前に行われるか死後に行われるかという点にすぎません。

通常の「寄付」については、寄付者の生存中に行われるものであるため、もし、寄付をした後にご自身の生活や将来設計・経済環境等に影響が出てしまったらと考えると、躊躇する方もいらっしゃるでしょう。

しかし、ご自分の死後に効力が発生する「遺贈寄付」であれば、このような心配や不安はなく、ご自分の生活を守りながら、自分の死後に債務等の清算まで行った上で、残った財産を第三者に譲渡することで、ご自分の想いを叶え、なおかつ社会貢献や支援活動に資することができるのです。

なお、「寄付」に類似のものとして「贈与」がありますが、「贈与」は財産を無償で譲渡するという点で「寄付」と共通しますが、「贈与」は贈与者と受贈者の契約によるものであって譲渡した物の使い道を指定することなどはできませんし。また、「寄付」が一般に社会貢献等のために行われるのに対し、「贈与」はあくまで贈与者から受贈者に恩恵的に財産を無償で譲渡するにすぎないといった点などに違いがあります。

遺贈寄付の種類

遺贈寄付の方法には、大きく分けて下記の3つの方法があります。

1.遺言による寄付

遺贈寄付のもっとも一般的な方法であり、遺言書によって、特定の第三者や団体等に特定の財産を遺贈することを明記して行う方法です。ただし、この方法による場合、予め遺言で寄付をする財産や寄付する相手方などの詳細を決める必要があります。また、遺言の内容を実際に形にするために「遺言執行者」を指定しなければなりません。

2.相続人による寄付

厳密な意味では遺贈寄付とは異なりますが、まず、財産を法定相続人が相続し、相続人が相続した財産を相続人から第三者や団体等に寄付してもらう方法です。そのため、この方法による場合には、予め本人が相続人に対しその旨を伝えておく必要があるとともに、相続人が本人の意思を叶えるべく、寄付を行う必要があります。

3.信託等の契約による寄付

信託契約等によって予め信託財産の受取人を指定しておき、財産を受託者に預けます(信託します)。受託者は、信託されて財産を管理・運用し、最終的に指定された第三者に財産を引き渡します。また、生命保険を利用する方法として、生命保険の受取人を信託銀行等に指定し、受益者を第三者や団体等にしていすることで遺贈寄付として活用することができます。

遺贈寄付において注意すべき点

遺留分についての配慮

お子さんのいないご夫婦や法定相続人のいない方(いわゆる「おひとり様」)については、ご自分の死後、財産があまり親交のない形だけの法定相続人に相続されたり、相続人が不在の場合には国に全財産が帰属したりといったことになります。ですから、このような方が遺贈寄付をすることはご自分の意思や想いを叶えるという意味では非常に有効な方法といえます。

ただし、配偶者や子がある場合には、それらの相続人には「遺留分」がありますから、遺贈寄付を行いたい場合でもこの「遺留分」に配慮する必要があります。「遺留分」とは、遺言によっても奪うことのできない、相続人に保障された遺産の取り分といえるものであり、もし、「遺留分」を侵害してしまうと、侵害された相続人からは寄付を受けた相手に対し「遺留分侵害額請求」がなされ、遺留分相当額の金銭の請求が行われることになります。相続人と寄付を受けた側とのトラブルを防止するといった意味で、遺留分に配慮することが必要です。

なお、相続人が兄弟姉妹や甥姪には「遺留分」が認めれませんから、これらの者が相続人となる場合には、遺贈寄付をすれば、これらの相続人には一切財産を相続させず、すべての財産を寄付することも可能となります。

遺贈寄付する財産を特定する

たとえば、全財産の2分の1の財産をある団体に寄付する旨の遺贈をしたい場合、2つの遺贈の仕方があります。

一つは、譲渡する財産を特定せずに「全財産の2分の1の財産を遺贈する」とする「包括遺贈」と呼ばれる遺贈の仕方です。

もう一つは、財産の2分の1に相当する特定の財産を指定した上で「(全財産の2分の1相当の財産を明記して)〇〇を遺贈する」とする「特定遺贈」と呼ばれる遺贈の仕方です。

どちらも結果的には全財産の2分の1の財産を寄付するという点では違いがありませんが、「包括遺贈」の場合、受遺者は単に財産を譲り受けるだけでは済まされず、相続人と同様の義務(例えば、遺産分割協議に参加する義務や相続財産を管理する義務、借金やその他の債務を支払う義務など)を負うことになります。

そのため、「包括遺贈」については、これらのリスクを恐れる結果、受遺者が遺贈寄付を受け入れてくれない可能性が生じます。一方、「特定遺贈」では、受遺者にこのような義務や生じません。

ですから、遺贈寄付する場合には、寄付をする財産を特定した「特定遺贈」とする方が良いでしょう。

包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

民法990条

遺言執行者を指定する

遺贈寄付が効力を生ずるのは、ご自身が亡くなった後ですから、遺言に記載した内容を実行するためには、具体的に遺言を実行する「遺言執行者」(いごんしっこうしゃ)が欠かせません。遺言執行者が決められていれば、遺言執行者は相続財産の管理その他遺言執行のために必要な一切の行為をすることができます。

また、遺言執行者がある場合、相続人は相続財産を勝手に処分したり遺言の執行を妨げたりすることができなくなりますから、より確実に遺贈寄付を行うことができます。

なお、遺言執行者に選任されるために法的な資格は要しないため、ご家族や親しい友人なども遺言執行者に指定することは可能です。ただし、遺言執行者は相続開始後様々な手続を行うことや法的知識が求めれる場面も多いことから、遺言執行者には、できれば豊富な実務経験や法律知識のある弁護士や司法書士を指定しておくと安心です。

1 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する
2 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる
3 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

民法1012条

1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない
2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
3 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

民法1013条

税金面についての配慮

遺贈寄付を行うことにより、寄付先が個人である場合にはその方には相続税が、法人である場合には法人税が課税されます(ただし、寄付先が公益認定を受けた法人である場合等には、税金が非課税となることがあります。)。

その他にも、たとえば、不動産を売却などせずにそのまま寄付すると、寄付した側には譲渡所得税(不動産を寄付すると時価で譲渡したものとみなされます)、寄付を受けた側には不動産取得税、登録免許税などの税金が課税されることになります。また、寄付を受けた後においても寄付を受けた側には固定資産税・都市計画税等の税負担が伴いますし、寄付を受けた側がその不動産を売却をすれば、その譲渡についてさらに譲渡所得税が課税されることになります。そのため、余ほどの事情がない限り、不動産を現物のまま遺贈寄付の対象物とすることは避けた方がよく、相続開始後に遺言執行者が売却等処分換金をした上で、現金を寄付する方が無難です

このように、遺贈寄付を行う場合には、それによって生ずる課税など税金面についての配慮も必要となります。

遺贈寄付の手続の流れ

ステップ1 信頼できる専門家に相談する

遺贈寄付は性質上、ご自分の死後において実際の寄付が行われることになりますから、確実に寄付が行われるようにするためには入念な準備が欠かせません。そのためには、遺贈寄付について知識や経験のある、信頼できる専門家に相談することが近道といえます。

相談する専門家としては、司法書士や弁護士など、法律事務を行うことができる士業が良いですが、これら士業の中でも、特に遺言や相続の手続を得意としている専門家に相談・依頼をすれば間違いがありません。

ステップ2 寄付先や寄付財産などの検討

遺贈寄付を行う場合、寄付の相手先や寄付する財産を特定する必要があります。寄付先の選定については、ご自分の想いを託す相手ですから、その相手として相応しい方か否かを見極めることが大切です。また、希望の相手先が見つかった場合でも、その相手先が遺贈寄付を受け入れてくれるのか、その場合、どの程度本人の意思を尊重してその財産を使用してくれるのかなどについて確認しておく必要があります。

ステップ3 遺言書の作成

遺贈寄付の内容や寄付先が決まり、具体的な寄付の内容や財産の清算方法などについても十分検討ができたら、遺言書を作成します。遺言書の作成は、法律が要求する手続に則ったものでないと無効となってしまいますから、遺言者本人の意思に叶う内容であることはもちろんのこと、遺言書の作成方法が法律の要件を充たしているかといった形式的な部分についても注意を払う必要があります。遺贈寄付をする遺言の方式については、法律の要件を充たすものであれば、どの方式でも差支えはありませんが、確実性・安定性を考えれば、公正証書によって作成するのがベストといえるでしょう。

ステップ4 遺言の執行

相続が開始すると、作成した遺言書の内容を実現し、遺贈寄付をするための遺言執行手続が始まります。遺言書作成の時点で遺言執行者を定めておけば、その遺言執行者が財産目録の作成や法定相続人等への通知等を行い、債務の支払い等の清算をした後、遺贈寄付の内容を実現すべく、財産の引渡しなど一連の作業を行います。なお、作成した遺言書が公正証書遺言または法務局に保管された自筆証書遺言以外の場合には、遺言執行の前提として、家庭裁判所の検認手続を経る必要があります。

遺贈寄付の相手先について

遺贈寄付の相手先としては、一般的には下記のような団体等が考えられます。

ただし、寄付そのものを受け入れてくれるか否か、受け入れるとしてもその財産の使途について本人の希望をどの程度聞き入れてくれるかは相手先にもよりますから、寄付してみたい先が見つかった場合でも、遺言書によって具体的に寄付先を指定する前に、相手先にこれらの点について確認しておくとよいでしょう。

NPO法人などの非営利活動団体

NPO法人(特定非営利活動法人)や公益財団など、営利を目的としない、社会貢献や奉仕を目的とする団体への寄付を行うことにより、その団体の目指す活動や事業内容に活かされるように遺贈寄付した財産が使用されることが期待されます。

NPO法人や公益財団は設立やその後の活動についても国が一定の関与(監督)をしていますから、寄付した財産が不透明な使途に用いられるおそれも少なく、安心といえるでしょう。また、理念や活動方針に共感できる団体が見つかれば、具体的な寄付財産の使用方法まで定めなくとも、財産を有効に活用してくれるような遺贈寄付を行うことができるのではないでしょうか。

学校法人や宗教法人などの法人

たとえば、ご自身の出身校や現役時代に勤務していた法人など、ご自分に所縁のある法人、信仰する宗教法人等へ遺贈寄付を行う方もいます。

実際に当事務所でお手伝いをした事例としては、現役時代に勤務していた大学(学校法人)に財産を寄付し、以前ご自身がその大学で行っていた研究活動費することで社会貢献に寄与して欲しいといった遺贈寄付をなさった方もいます。

地方公共団体などの自治体

ご自分が生活する市町村や生まれ育った街に寄付したり、支援したい地域・思い入れの強い土地などがある場合に自治体に寄付をすることもできます。

自治体に寄付する場合、その使い道についてこと細かく指示することは難しい場合もありますが(自治体の場合には、どうしても予算の執行という制限を受けることがあります)、大まかに希望をすることはできます。

例えば、寄付した財産の使い道として、「学校教育のために使って欲しい」とか、「地域の福祉に役立てて欲しい」などといった形です。当事務所で過去に行った遺贈寄付の事例としては、ある山の登山道が通っている自治体に遺贈寄付を行い「〇〇山の登山道の整備に役立てて欲しい」とご本人の意向をお伝えし、受け入れていただきました。

法人格のない団体(寄付先としては不適)

法人格とは「法律に基づいて団体に与えられる法律上の人格」のことであり、一般に「法人格を取得する」とか「法人化する」などといった言い方をします。私たちの最も身近なところでは、「株式会社」などの営利法人や「NPO法人」、「財団法人」、「宗教法人」などの非営利法人など、多くの類型の法人格が存在します。

法人格は持っていないものの、一定の「団体」としての活動はしている場合、これらの団体は「任意団体」と呼ばれています。例えば、趣味のサークルや同好会、地縁団体などがこれに該当します。「任意団体」は、実態は組織化して法人のように活動していたとしても、「法人格」を有しない以上、法律上はあくまで個人の集まりに過ぎないということになります。

法人格のない団体については、団体名で契約したり財産を所有したりといったことができません。つまり、仮にその団体に遺贈寄付をしようとすれば、それはあくまで団体の全構成員である個人(またはその代表者個人)に寄付(=贈与)するという形態をとらざるを得ません。

そのため、法人格のない団体への寄付については、できれば避けた方が無難といえるでしょう。

遺言作成から遺言執行までサポートします

当事務所では、遺贈寄付について、どのような準備や手続が必要となるのか、遺贈寄付の相手先や方法について無料相談を承っています。

また、実際の遺言書の作成支援や遺言執行まで、専門の司法書士がトータルサポートをしています。

遺贈寄付をお考えの方、是非一度、当事務所までご相談ください。

電話でのお問い合わせ

面談でのご相談は事前予約制となります。土日夜間のご予約も可能です。
電話受付時間 平日 9時 ~ 17時 まで
受付時間外はメールでお問合せください。

TEL : 0493-59-8590

スマホからはタップで電話がかかります。

メールでのお問い合わせ



    当事務所のご案内

    事務所所在地

    〒355-0028
    埼玉県東松山市箭弓町3丁目5番8号
    電話:0493-59-8590

    東武東上線 東松山駅西口より 徒歩2分
    関越自動車道 東松山ICより 車3分

    東松山駅西口のロータリー先に見えるローソンのある交差点を右折して100mほど進んだ左側です。

    事務所前に駐車スペースがございます。
    大型車は近隣のコインパーキングをご利用ください。

    アクセスマップ

    当事務所の概要

    名称司法書士田中事務所
    代表田中聖之
    所在〒355-0028
    埼玉県東松山市箭弓町3-5-8
    運営サイト司法書士田中事務所公式サイト

    司法書士田中聖之事務所

    電話0493-59-8590
    所属団体埼玉司法書士会(埼玉第868号)

    公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート

    日本司法書士会連合会

    埼玉県公共嘱託登記司法書士協会

    東松山市商工会

    営業時間平日 9:00 から 18:00 まで
    (電話受付は 17:00 まで)
    土日夜間の対応も可能です(予約制)。
    取扱業務相続手続全般の代行業務

    不動産の名義変更手続(相続登記手続)

    遺言書の作成支援(公正証書遺言)

    遺言の執行手続

    相続放棄の手続

    生前贈与の登記

    離婚による財産分与の登記

    成年後見に関する手続 など

    沿革平成10年 司法書士資格取得

         東京都新宿区の司法書士事務所に勤務

    平成12年 司法書士登録

         東京司法書士会入会

    平成13年 司法書士田中事務所開設

         埼玉司法書士会入会

    平成17年 法務大臣より 簡易裁判所訴訟関係業務司法書士 に認定

    平成23年 ~ 24年度 埼玉司法書士会 東松山支部 支部長 拝命