贈与税は、個人から贈与により財産を取得したときに受贈者(財産をもらった方)に課税される税金です。法人から贈与により財産を取得したときは、贈与税ではなく所得税の課税対象となります。
贈与が行われた際の贈与税の課税の制度には「暦年課税」と「相続時精算課税」の2種類があり、受贈者(もらう方)には、贈与税の申告や納税の義務が生ずることになります。
暦年課税
暦年課税とは
暦年課税とは、財産をもらった人が、その年の間に贈与してもらった金額の合計額が110万円を超えた場合に、その超える部分にのみ贈与税が課せられるという制度です。
すなわち、1年間に贈与を受けた財産の総額が110万円以下であれば、贈与税は課税されません。
なお、贈与税が課税されない場合、贈与税の申告も不要です(贈与税がかからないという申告は必要ありません)。
また、通常、受贈者が下記に紹介する「相続時精算課税」の届け出をしない限り、暦年課税の方法により贈与を受けたものと扱われます。
暦年贈与の注意点
1.贈与の証拠を残す
暦年贈与で少しずつ贈与をしたという形をとっても、特に契約を作った訳でも、銀行振り込みなどではなく手渡しで現金を渡してしまうなどすると、後日、当事者間でトラブルとなる場合もありますし、税務署から調査を受けた場合に贈与が否認されてしまうなどの可能性もあります。
このようなことを防止するためには、贈与が行われる都度契約書を作成したり、現金などは手渡しでなく銀行振込みを利用する、受取書を発行してもらう、などの証拠を残しておくべきでしょう。
2.定期贈与とみなされないようにする
毎年決まった時期に決まった額を贈与すると、はじめからその総額をまとめて贈与し、それを分割して定期的に渡していた(定期贈与)として、贈与税が課税されてしまうリスクもあります。
このように定期贈与とみなされないためには、1)都度、贈与契約書を作成する、2)毎年同じ時期に同じ額の贈与をすることは避ける、などがよいでしょう。
なお、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与をした場合について、国税庁の見解が示されていますので、ご紹介します。
Q 親から毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受ける場合には、各年の受贈額が110万円の基礎控除額以下ですので、贈与税がかからないことになりますか。
A 定期金給付契約に基づくものではなく、毎年贈与契約を結び、それに基づき毎年贈与が行われ、各年の受贈額が110万円以下の基礎控除額以下である場合には、贈与税がかかりませんので申告は必要ありません。
ただし、毎年100万円ずつ10年間にわたって贈与を受けることが、贈与者との間で契約(約束)されている場合には、契約(約束)をした年に、定期金給付契約に基づく定期金に関する権利(10年間にわたり100万円ずつの給付を受ける契約に係る権利)の贈与を受けたものとして贈与税がかかります。
なお、その贈与者からの贈与について相続時精算課税を選択している場合には、贈与税がかかるか否かにかかわらず申告が必要です。(相法21の5、24、措法70の2の4、相基通24-1)
3.相続の際に揉めないようにする
特に複数の子の一部に対して贈与を行う場合、後日、相続が開始した際にはすでに贈与された財産が問題となることがあります。贈与者が死亡した時点で現に保有している財産だけを遺産として扱うと、生前に贈与を受けた一部の相続人だけが得をし、公平な相続ではなくなる可能性があります。
そのため、法定相続人に対する生前贈与については、遺産相続の前渡しが行われたものと扱われることになります。
こうした贈与の内容や経緯が相続人間でも共通の認識の下で行われていればよいのですが、そうでない場合には、良かれと思って贈与したことで残された家族の間で揉め事につながってしまうこともあります。
相続時精算課税制度
相続時精算課税とは
相続時精算課税制度とは、原則として60歳以上の父母または祖父母から、18歳以上の子や孫に対して行われた贈与について、贈与された額の合計が2,500万円までは贈与税が無税となる制度です。
少し分かり辛いかもしれませんが、この制度は、贈与した金額が2,500万円までであれば、とりあえず贈与税は納めなくても良いから、もし、相続が開始した時点(贈与者が亡くなった時点)で相続税を納めなければならない位に資産を持っていた場合には、その時に相続税で精算してくださいね、ということです。
つまり、この制度はあくまでも贈与税や相続税を完全に免除するというものではなく、亡くなった時点で相続税が課税されない位の資産状態であれば、生前に前渡ししたとしても、贈与税はかからないようにします、という制度です。そのことが「相続時」と「清算課税」という名称にも表れています。
相続時精算課税を利用した場合、その後贈与者が亡くなった時点で、その贈与した財産の価格を含めて相続税を計算し、この相続税額と既に支払っていた贈与税がある場合にはその差額を支払う(又は還付)ことになります。
なお、この制度の適用条件として、贈与する方は贈与をした年の1月1日において60歳以上の父母又は祖父母、もらう方は贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、贈与者の推定相続人となる子又は孫とされています。
相続時精算課税の注意点
1.年齢条件
相続時精算課税制度の適用条件の中で最も重要なポイントは贈与の年の1月1日において、あげる側が60歳以上、もらう側が18歳以上、という点です。
たとえば、贈与をしたのがある年の8月8日で、その年の5月5日に受贈者は18歳の誕生日を迎えていたとします。
しかし、このケースの場合、その年の1月1日の時点では、受贈者はまだ17歳ですから、相続時精算課税制度は利用できないということなります。
あげた時点で60歳、もらった時点で18歳、ではありません。贈与した年の1月1日現在の年齢が条件となっています。くれぐれもご注意ください。
2.2,500万円までは贈与税は非課税だが、全額相続税の課税対象に
相続時精算課税を利用すると、贈与税については2,500万円に達する部分は無税、2,500万円を超えた部分については一律に20%の税率の贈与税が課税されます。ただし、贈与者が死亡した場合、すでに贈与した2,500万円も贈与者の遺産として計上され、相続税の課税対象となってしまいます。
3.暦年課税には戻れません
一度相続時精算課税制度を利用してしまうと、暦年課税の制度には戻れません。上記の注意点で述べたとおり、相続時精算課税制度では、相続開始時に既にこの制度で贈与した財産も含め相続税の課税対象財産を計算することになりますから、後日、暦年課税で少しずつ財産を贈与し、相続税の課税対象財産を減らしたいと考えても、暦年課税に戻ることはできないとされています。なお、令和6年1月1日以降の贈与については、毎年110万円までの贈与については贈与税が課税されず、贈与税の申告も不要となり、相続財産への持ち戻しも不要となります。
4.少額の贈与でも贈与税の申告が必要になります
相続時精算課税を利用すると暦年課税には戻れない、ということは、年間110万円以下の贈与であっても贈与税の申告をしなければならなくなるということです。
贈与税の計算方法
暦年課税においては、1年間に贈与を受けた額の合計が110万円までは贈与税は非課税となります。この場合、贈与税の申告も不要であり、特に何の手続も必要ありません。ただし、相続時精算課税を利用している場合、暦年課税とはなりませんので、110万円の控除がなくなります。
贈与税の課税対象となる金額
1年間に贈与を受けた額の合計 - 110万円 = 贈与税の課税対象金額
贈与税額の計算
贈与税の課税対象金額 × 税率 - 控除額 = 贈与税額
贈与税の税率と控除額については、課税対象となる金額によって異なります。
暦年課税の場合、税率と控除額は次のとおりとなっています。
【一般贈与財産用】(一般税率)
この税率は、一般の贈与税の計算に適用されます。
たとえば、夫婦間の贈与や親子間での贈与で子が未成年者の場合などが該当します。
基礎控除後の贈与額 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | 控除なし | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
(例) 500万円を未成年の子に贈与した場合
500万円-110万円(基礎控除)=390万円
390万円×20%-25万円=53万円(納める税金)
【特例贈与財産用】(特例税率)
この税率は、直系尊属(祖父母や父母など)から、その年の1月1日において20歳以上の者(子・孫など)への贈与税の計算に適用されます
基礎控除後の贈与額 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超 |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | 控除なし | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
(例)500万円を成人の子に贈与した場合
500万円-110万円(基礎控除)=390万円
390万円×15%-10万円=48.5万円(納める税金)